箕をふるう人。(後編)
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後編からお付き合いいただく方
前編もご覧頂ければ幸いです。
さて、早速ですが、Sasquatchfabrix.(サスクワッチファブリックス.以下、サスク)
の今シーズンのテーマに触れていきたいと思います。
22-23AWのテーマ『労働者を大切に』
ブランドの悲願となる鈴木賢二氏の作品とコラボレーションアイテムが並びます。
鈴木賢二(1906-1987)概略
市井の人々をいきいきと描いた鈴木賢二(1906-1987)は、版画家として、彫刻家として、そして漫画家として、昭和という困難な時代を駆け抜けました。
その優れて前衛的な造形は、近代美術史のなかでも存在感を示しています。
栃木県下都賀郡栃木町(現・栃木市)に生まれ、のちに北関東の戦後版画運動を担った鈴木賢二は、
1925年に東京美術学校(現・東京藝術大学)の彫刻科に入学後、プロレタリア美術運動に熱中し、
漫画やスケッチで人物表現に秀でた才能を発揮しました。
1932年暮れ頃に栃木へ帰郷してからは彫刻家として活躍し、
やがて第三部会の会員にもなったほか、工芸やエッチング制作など、多彩な分野への挑戦を試みています。
第二次世界大戦後には、社会運動にかかわった木版画を多く制作し、
日本国内にとどまらず、中国や旧ソビエト連邦ど、国際的な広がりのなかで活動しました。
そのメッセージ性の強い版画によって平和を希求し、懸命に生きる人々の側に立ち続けました。
ときに時代の波に翻弄されながらも、生涯にわたって、農村に生きる人々や都市の労働者たちに温かい眼差しを向け、
そして快活な子どもたちを慈しみ深くとらえ続けた美術家です。
Sasquatchfabrix.公式より
まずここではっきりさせてもらうと
僕はプロレタリア美術運動の主張とは対立する意見を持っているということです。
少し前から民族的ロマン主義といわれる芸術思想がここ最近の機運にとても
マッチしているなと感じいて。
民族的ロマン主義とは具体的に18,19世紀にヨーロッパ各地で勃興した思想で
それまでは誰もがギリシャ神話を題材としたり、
わかりやすく聖書を題材とした作品を残していたのですが
そうではなく、自分達の民族の物語を題材に作品を作ろうとする動きのことです。
ゲルマン人ならニーベルンゲンの唄だったり
ケルト人ならケルトの伝説だったり
また、ニュアンスは少し異なりますが
プリミティヴアートの再発見も同じく時代の節目で行われています。
ピカソがアフリカ彫刻を収集し、そこからインスピレーションを受けて作品を作ったのは有名な話しであったり
もっと民族のルーツを反映した作品を。自分達の芸術へと昇華していこうという動きです。
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THE LANGUAGE OF BEAUTY IN AFRICAN ART
僕らで言うところの日本人が持つ日本らしい作品の
価値を再考し、伝えていかなければいけないのじゃないか。
という考え方です。
そういった意味ではサスクが鈴木賢二氏の作品をファッションに落とし込み昇華する試みはとても意味のあることだと
心からそう思います。
ただ、ここで問題定義したいのは鈴木賢二氏の作品自体に持つ個人的な意見です。
20世紀のアートは混沌という表現がふさわしいかと思います。
大きな戦争が二つとデジタル大革命、科学技術の著しい発展により各産業が発展。
目まぐるしく世の中が変わって行きました。
激動の時代の中、価値観の変容も著しく
一人の作家をこういったアーティストですと、ジャンル分けしてしまうのは危険です。
危険なのですが、ここで鈴木賢司氏が傾倒したプロレタリア美術運動は
ポリティカルアートであるとここでは分類します。
ポリティカルアートとは
政治的な意見の表現形態が芸術性を帯びるのではないかというある種、風刺画に芸術性を求める行為であり
政治性を排除したり、そのアーティストと思想が異なる場合、それが果たしてアート足りうるのか、
僕の様な資本主義礼賛の様な人間が社会主義や共産主義に政治的影響を与えた作品に共感し得るのか。
政治性の不一致によりアートだと思えないのではないかということがポリティカルアートを観る上でのポイントだと思っています。
僕はアートを鑑賞するのが好きなのですが。
正直、そこに芸術性が宿っているかどうかは理解し難いことがあります。
世に言う歴史的名作を目の当たりにしたり、新進気鋭の現代アーティストの作品を見ても。
異文化の宗教や歴史。
作者のこれまでの活動やその作品の背景を知らないと作家の真意に辿り着けない様な作品に出会うことがあります。
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1590~1603年頃 エルグレコの『受胎告知』大原美術館蔵
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2019年 マウリツィオ・カテランの『コメディアン』とそれを食べるデイビッド・ダトゥナ『ハングリーアーティスト』
ただ、西洋の宗教画だろうが、現代アーティストのインスタレーションだろうが
稀に落雷に打たれた様な衝撃と脳みその半分がとろけそうになるような恍惚。
上から光が差し、金縛りにあったように動けなくなる瞬間があります。
わからなくとも感じることができる。
そんな魅力も存在する。言葉では説明できない物や
人は自分の理解を超えているものにも魅力を感じることが出来るというのもわかっているつもりです。
そしてそれはもしかしたら、アートよりもファッションに教えてもらったことかもしれません。
そのブランドのことを知らずとも。
着たら欲しくなってしまう。買うつもりじゃなかったのに買っちゃったとかですね。
洋服にもあがらうことの出来ないどうしようもない魅力があると思います。
だから、一番大事にして欲しいのは自分がどう感じたか。
出来上がった作品を見て結果、自分がどう思ったか。
それに尽きるとも思います。
特に、今回はアートであり、ファッション。
洋服に落とし込まれていますしね。
さて、ここで改めてサスクの今シーズンのアイテムを見てみましょう。
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Sasquatchfabrix. ”馬”CHINA JACKET ¥60,500-(taxin)
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僕が今シーズン店頭に選んだ作品は
慈しみのある生産者、美しい人間の姿を描いていると感じた作品でした。
それは自然と晩年の作品が多かった様に思います。
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『貌』
1959年頃 鈴木賢二版画館 如輪房蔵
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『馬』
1962年頃 鈴木賢二版画館 如輪房蔵
何気ない日常の何気ない風景。
そこにいる人たち。
美しさとはなにか。
何を持って美しいと人は感じるのか。
そこに政治的思想は必要ないと僕は思いました。
加速する近代化と変容する価値観に憂いを覚えたのは
当時の作家たちに他ならないと思います。
今を必死に生きる人たちを見て、描く。そこに伝えたいことがある。
今でこそ、当たり前になってしまった風化してしまった感覚をもう一度呼び起こす。
サスクの想い。今だから選んだ鈴木賢二氏の作品とそれが踏襲された服を観て
みなさんがどう思うのか。
ぜひ、感想を教えていただけたら嬉しいです。
それでは、また。